生成AIプロンプト|要件定義のヒヤリングシート作成

生成AI用プロンプト|要件定義のためのヒヤリングシートを作る

顧客から、システム要件を聞き出すための質問一覧、所謂「ヒヤリングシート」の作成を、生成AIに手伝ってもらおう。

本記事は、ChatGPTGoogle Gemini(旧Bard)などの生成AIに、貼り付けるだけヒヤリングシートを作成できる、プロンプト(命令文)を紹介する。

ITシステムの導入プロジェクトで使える

ITシステム構築および導入プロジェクトにおける上流フェーズ「要検定義」において、顧客から機能・非機能要求を聞き出すヒヤリングは、システム設計のインプット情報を得るために、とても重要な作業だ。

顧客の要件、すなわち、顧客が抱えている課題や、システムへの要求を聞き出すため、コンサルタントは様々な「質問」を顧客に投げかける。

顧客の課題に切り込む、効果的な質問を大量に考え出す作業は、なかなかの重労働だ。

しかし、生成AIに依頼すれば、わずか数秒。いくらでも質問を作成してくれる

質問作成の時短になるだけでなく、「そんな視点もあったのか!」と、自分では思いつかないような質問も、生成AIは考えてくれる。

つまり、生成AIを活用すれば、質問の網羅性も高まるのだ。

生成AIを活用して顧客への質問を網羅的に作り出し、要件定義を効果的に進めよう。

生成AIに指示を与えるプロンプト

要件定義を要領よく進められるよう、これから紹介するプロンプトサンプルは、以下の特長を備えている。

要件定義を要領よく進めるための、プロンプトの特長

  • 業界・業種を指定できる
  • 質問の優先順位を決める
  • 顧客の回答まで予想

業界・業種を指定できる

当たり前だが、顧客への質問=ヒヤリングは、「顧客の業務」を聞き出す必要がある。

したがって、顧客への質問は、顧客の業務に関係するものでなくては意味がない。

また、ヒヤリングは、顧客の業種・業界・業務を理解しているコンサルタントが行うべきである。さもなくば、顧客の業務とは無関係な、トンチンカンな質問をして、顧客を怒らせることになりかねない。

そうならないよう、このプロンプトでは顧客の業種・業界を指定できるようになっている。

業界・業種を指定することで、その分野に精通したコンサルタント(AI)を召喚するのだ。

質問の優先順位を決める

要件定義にかけられる時間は無限ではない。限られた時間の中で、要領よく質問を重ねなければならない。

生成AIは無尽蔵に質問を生成できるが、実際の要件定義では、時間の都合で、全ての質問を消化できないない場合がある。

つまり、時間内に、必ずしなければならない質問、省略しても影響が小さい質問 というように、質問には優先順位を付けて臨む必要がある。

「どの質問からするか?」

で迷わないように、プロンプトでは、質問すべき優先順位を、3段階(必須は1)で表示するように指示している。

顧客は「こう答えるのでは?」まで予想

質問を作るだけでなく、その予想回答まで作成する。

顧客はおそらく、こう答えるだろう」を予想しておけば、その回答に対するフィードバックや、対策・ソリューションを、予め準備しておくことができる。

備えあれば憂いなし。
ソリューションを準備しておけば、プロジェクトを落ち着いて進められる。

プロンプトサンプル

プロンプトのサンプルは以下。

後述の「プロンプトの解説」を参照しながら、適宜変更を加えてほしい。

#依頼
あなたは{#役割}です。現在、SAP社のS/4HANA(ERPシステム)を導入するプロジェクトに参画しており、システム設計のための「要件定義」を開始しようとしています。要件定義のための「ヒヤリングシート」を作成したいので、{#背景}にある背景を踏まえ、「ヒヤリングシート」に記載する質問と、その回答予想を、{#形式}の形式で出力してください。次の{#ルール}は必ず守ってください。

#役割
ビジネスアナリスト、且つSAP ERPのコンサルタント

#背景
-顧客のビジネスは「受注生産」または「受注設計生産」が主である。
-顧客にとっての「受注設計生産」とは、所謂プロジェクト管理のことである。
-顧客は自社のプロジェクト管理を「製番」という単位で管理している。
-あなたは顧客が製造・販売している製品は知っているが、顧客特有の製造プロセスについては知らない。
-顧客はSAPシステムおよびERPの初心者なので、質問にSAPシステムやERPに関する専門用語を使ってはならない。

#形式
-表形式
-列は「質問番号」「質問タイトル」「質問内容」「予想解答」「質問の優先度」

#ジャンル
生産計画、生産管理

#ルール
-{#ジャンル}のジャンルの質問を中心に行う。
-質問は5個挙げる。
-「質問の優先度」は、システム設計において重要、且つ優先度の高さを{#評価}で評価する。
-「質問の優先度」は「★」マークで表記する。最高は「★★★」となる。
-顧客に対する二人称は「貴社」とする。
-「予想解答」は、顧客の回答を予想し、顧客になったつもりで回答する。
-「予想解答」のテキストに鉤括弧はつけないこと。
-回答は{#形式}で指定した形式のみを出力する。

#評価
-質問すべき優先度を3段階で評価する。

プロンプトの使い方

  1. 上記のプロンプトサンプル全体をコピーし、「メモ帳」などのテキストエディタに貼り付ける。
  2. 後述「プロンプトの解説」を参照しながら、要件定義の特性に合わせ、テキストエディタ内で内容を修正する。
  3. 生成AIのチャットボックスに、テキストエディタの内容をコピー&ペーストする。
  4. 生成AIに、問い合わせる(送信する)。
  5. 数秒後、表形式のヒヤリングシート(質問一覧)が出力される。

プロンプトの解説

表記の基本ルール

先頭に「#」を書くと、その行はコメントとなる。
一般的なプログラム言語におけるコメントは、実行時は完全に無視される。一方、生成AIにおいては、コメントは無視されない。
サンプルを見ればわかる通り、コメントというよりも「ラベル」の役割を果たす。

また、先頭に「-」(ハイフン)を書くと、箇条書きでいうバレット(行頭文字)となる。

#依頼

生成AIに対し、これから何を依頼するのか、依頼に際しては、各種条件はどのように伝えられるのか、最初に指示する。

#役割

生成AIの役割、すなわち、どの分野の専門家なのかを指定する。

専門分野を指定することによって、生成AIが「その道のプロ」のように思考し、発言するようになる。したがって、この役割の指定は重要

このサンプルでは、基幹業務システムであるSAPシステム(S/4HANA)の導入プロジェクトを想定し、「ビジネスアナリスト」「SAPコンサルタント」の二つの役割を指定している。

#背景

プロジェクトの「前提」や「目的」、ヒヤリング担当者(=生成AI)の置かれている状況、ヒヤリングで考慮すべきポイントなど、わかっている範囲で、プロジェクトや顧客についての情報を列挙する。

質の高いアウトプットを得るためには、質の高いインプットが欠かせない。できるだけ詳しく正確に書く。

#形式

生成AIが出力する回答(ヒヤリングシートの内容)の出力形式を指定する。

このサンプルでは、Excelなどのスプレッドシートに貼り付けるため、「表形式」としている。
(カンマ区切りテキストで出力したければ、「CSV」とする)

また、回答として出力する表の項目(列)の見出しも定義している。

#ジャンル

質問する業務領域を絞り込むため、FI/CO/SD/MM/PPなど、SAPシステムにおける「SAPモジュール」を指定する。

SAPモジュール名ではなく、一般的な業務名を指定している理由は、要件定義の段階では、どの課題をどのSAPモジュールで解決するのか、決定していないためである。

#ルール

ヒヤリングシートを出力するための各種「ルール」を記述する。
このルールセクションでは、以下のような条件を指定している。他にも条件が必要な場合は、このセクションに追記する。

  • 出力表の各列の定義。
    「#形式」では、出力する列のタイトルを指示した。しかし、タイトルだけでは言葉が足りず、AIに指示が伝わらないおそれがある。AIが出力を誤らないよう、列の定義について補足している。
    出力列の内容が期待と異なる場合は、このルールセクションに補足を書いて調整する。
  • 出力する質問の数(サンプルでは5個)。
  • 「質問の優先度」の表記方法。このサンプルでは某ECサイトのように「★」としている。
    「質問の優先度」の評価の方法は、後述の{#評価}を引用するように指示。
  • 質問を受けた顧客が答えそうな「予想回答」についての指示。
  • AIが変に気を利かせて、余計な回答や表現を付け加える場合がある。それを防ぐため、「回答は{#形式}で指定した形式のみを出力する」を加えている。

#評価

このセクションは「#ルール」セクションから参照される。

「#ルール」で定義した「質問の優先度」について、評価を何段階で行うかを定義する(サンプルでは3段階)。

出力結果の例

ChatGPT 3.5

質問自体は普通だが、「予想解答」が回答になっておらず、「質問」を具体的に言い換えているだけである。

顧客がこちらの質問を理解できない時、質問を噛み砕いたり、違う表現にして質問し直すのは効果があるので、これはこれで参考にはなる。

GPT 3.5に回答まで予想させるのは、少々酷かもしれない。
GPt 3.5においては、「質問の生成」に専念させるのがよさそうだ。

ChatGPT 3.5に要件定義のためのヒヤリングシートを作成させた結果

ChatGPT 4

最初に業務プロセス全体を聞き出そうとしてる点は、GPT 3.5と同じ。

「予想解答」は、顧客が回答したような体裁で答えてくれており、GPT 3.5と大きく違う点だ。

GPt 4は、質問と予想解答の生成の、両方に問題なく使えそうである。

ChatGPT 4に要件定義のためのヒヤリングシートを作成させた結果

Google Bard

プロンプトで指示はしていないが、質問が「製番」縛りとなっている。質問数が少ないためかもしれないが、Bardの場合、質問に偏りが起きる傾向があった。
しかし、人間だって、ある事項を深く知ろうとすれば、質問は特定の分野に集中していくものである。

質問者(Bard)が特定分野を掘り下げようとしているのは、質問者がこの分野に精通していることを示唆しているとも受け取れる。
これは「予想解答」から伺い知ることができる。たとえば、製番には「受注生産と設計変更の2つがある」と予想している点である。このように、Bardの予想解答は総じて、GPT 4よりも具体的、専門的である。

Bardは質問と、その回答を予想するのは得意そうだ。

Google Bardに要件定義のためのヒヤリングシートを作成させた結果

まとめ

要件定義のための質問(ヒヤリング項目)と回答予想の作成」について、各生成AIのできる・できないを、下表に纏めておく。

顧客への質問の「的確性」「具体性」と、その予想解答の「専門性」「顧客のなりきり感」を、筆者の主観で3段階評価した(この記事の投稿時点)。

ChatGPT 3.5ChatGPT 4Google Bard
質問(ヒヤリング項目)の作成★★☆★★☆★★★
回答の予想☆☆☆★★☆★★★

想定Q&Aを作成する能力は、Google Bard が最も優れていると思われる。

SAPシステム機能の知識が求められる「SAP機能の新旧比較調査」では、Bardは散々な結果だった。
しかし、顧客の現行業務を聞き出すのに、システムの知識は必ずしも必要ではない。むしろ、「SAPシステムありき」の質問を防ぎ、要件そのものに迫れるので、Bardのアドバンテージだと思う。

質の高い質問をするためには、システムの知識よりも業種・業界の知識が求められる。その点、Googleが保持している記事の量は、OpenAIやMicrosoftを圧倒しているので、それら豊富なデータをBardが駆使して質問を生成しているとすれば、この結果は頷ける。

ただし、次の記事にあるように、ChatGPT 4のインテリジェンスが劣っているということでは、決してない。対象とする業務分野や、与えるプロンプト次第で、結果は変わると考えられる。

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